まず知っておきたい「紹介料」の基本ルール

人手不足の解消策として「特定技能」を持つ外国人材の採用を考える経営者の方は多いでしょう。その第一歩として人材紹介会社(登録支援機関)に相談することが多いと思いますが、まず「紹介料」がどのようなルールで決まっているかを知ることが重要です。これは国の法律(職業安定法)で厳しく定められています。
なぜルールが厳しいのか?
昔、悪質な業者が働き手から不当にお金を取るトラブルが多発しました。その反省から、国は労働者を守るために、紹介料について細かいルールを設けています。ルールを破ることは、単なるミスではなく、会社の信用を失い、将来的に外国人を採用できなくなる可能性もある重大な違反と見なされます。
紹介料の主な2つのタイプ
紹介料の計算方法は、主に2種類あります。どちらのタイプかによって、支払う金額が変わってくる可能性があるため、違いを知っておくと交渉の際に役立ちます。
タイプ1:年収連動タイプ(届出制手数料)
これは、現在最も一般的なタイプです。採用が決まった人の想定年収(給料や固定手当、ボーナスなど)に、あらかじめ決められた料率(例:30%~35%)を掛けて紹介料を計算します。例えば、年収400万円の人材なら、紹介料は120万円~140万円になります。人材紹介会社はこの料率を国に届け出ており、年収の50%を超えることはできません。
タイプ2:支払給与連動タイプ(上限制手数料)
こちらはあまり一般的ではありませんが、法律で認められているもう一つの方法です。実際に支払った6ヶ月分の給料の10.8%が紹介料の上限となります。給料を支払った後に紹介料を払うのが原則です。
多くは年収連動タイプですが、例えば「基本給は低いが、成果給の割合が大きい」といった給与体系の会社の場合、支払給与連動タイプの方がコストを抑えられる可能性があります。自社の給与体系に合った紹介会社を選ぶという視点も大切です。
絶対に守るべき大原則:働き手本人からお金を取らない
日本の法律で、職業紹介の費用を、働き手本人に請求することは原則として固く禁止されています。特定技能外国人は、この例外には全く当てはまりません。したがって、どのような名目であっても、紹介料を本人に負担させることは明確な法律違反です。
これは、海外のパートナー企業(送出機関)が関わる場合も同じです。もし、採用候補者が来日のために多額の借金をしていることが発覚すれば、日本の受入れ企業が人権侵害に加担したと見なされる重大なリスクがあります。「本人からは1円も取らない」。これは、採用に関わる全員が守るべき絶対のルールです。
結局いくらかかる?採用コストの全体像
特定技能外国人の採用コストを考えるとき、「紹介料」は氷山の一角に過ぎません。実際には、紹介料以外にも様々な費用が発生し、これらを含めたトータルの金額で考えなければ、経営判断を誤ります。ここでは、費用の全体像を明らかにします。
紹介料以外にかかる費用の内訳
採用を成功させるためには、以下の費用も必ず予算に組み込む必要があります。
海外の現地パートナー(送出機関)への手数料
海外に住んでいる人材を採用する場合、特にベトナムやフィリピンなどの国では、現地の送り出し機関を通すことがルールになっています。彼らは現地での人材募集や日本語教育、出国手続きなどを行ってくれます。この手数料は10万円~60万円程度かかり、紹介料とは別に必要です。海外採用の大きなコスト要因の一つです。
外国人材の生活サポート会社(登録支援機関)への委託費
特定技能外国人を受け入れる企業は、法律で定められた10項目の支援(空港への出迎え、役所の手続き同行、日本語の勉強サポート、悩み相談など)を行う義務があります。これを全て自社で行うのは非常に大変なため、ほとんどの企業が専門の「登録支援機関」に委託します。費用は、採用時にかかる初期費用が30万円~40万円、さらに月々のサポート料として1人あたり2万円~4万円が継続的に発生します。
ビザ申請などの行政手続き費用
外国人を雇用するには、国の許可(在留資格)が必要です。この申請手続きは書類が非常に多く複雑なため、行政書士などの専門家に依頼するのが一般的です。国に払う印紙代は数千円ですが、専門家への代行費用として初回の申請で10万円~20万円、更新時で4万円~10万円ほどかかります。
その他の初期費用
- 渡航費(飛行機代): 海外から呼ぶ場合、5万円~10万円ほどかかります。採用を有利に進めるため、多くの場合、会社が負担します。
- 住居の準備費用: 来日してすぐに住む場所がないため、会社が社宅やアパートを用意する必要があります。敷金・礼金、家具・家電の購入などで10万円~30万円以上かかることもあります。
このように、様々な費用を合計した「1人あたりの総獲得コスト」で予算を考えないと、後で資金繰りに困ることになります。特に海外からの採用では、送出機関と登録支援機関への費用がコストを大きく左右する鍵となります。
【コスト比較】海外から呼ぶ?国内で探す?最適な採用ルートの見つけ方
採用コストは、どこにいる人材を採用するかで劇的に変わります。ここでは3つのパターンを比較し、どの方法が自社にとって最適かを見極めるヒントを提供します。
シナリオ1:海外から新しく人材を呼ぶ場合
最も費用がかかるパターンです。紹介料に加えて、海外パートナーへの手数料、渡航費、住居準備費など、あらゆる費用が発生します。
表1:海外在住者の採用にかかる初年度費用の目安
費用項目 | 低めの見積り (円) | 高めの見積り (円) | ポイント |
---|---|---|---|
人材紹介手数料 | 300,000 | 600,000 | 採用成功時の支払い |
海外パートナーへの手数料 | 200,000 | 600,000 | 海外採用の主要コスト |
生活サポート会社の初期費用 | 300,000 | 400,000 | 支援の委託に必要 |
ビザ申請の代行費用 | 100,000 | 200,000 | 専門家への依頼料 |
渡航費・住居準備費など | 150,000 | 400,000 | 来日のための初期投資 |
初期投資の合計 | 1,050,000 | 2,200,000 | 採用時に一時的に必要なお金 |
生活サポート会社の月額費用(年間) | 240,000 | 480,000 | 継続的にかかる費用 |
初年度の総費用(目安) | 1,290,000 | 2,680,000 | 一人採用するのに必要な総額 |
ご覧の通り、初年度の総費用は安くても130万円近く、高ければ250万円を超える大きな投資となります。
シナリオ2:日本に既に住んでいる外国人を採用する場合
留学生や、技能実習を終えた人などを国内で採用するケースです。コストを大幅に抑えることができます。
この場合の最大のメリットは、海外パートナーへの手数料と渡航費がゼロになることです。これにより、初期投資を数十万円単位で削減できます。初年度の総費用は、上の表から海外関連費用を差し引いた約94万円~168万円が目安となり、海外採用よりもかなり現実的な選択肢と言えます。
シナリオ3:自社の技能実習生が特定技能に移行する場合
これが最もコストを抑えられる、理想的なパターンです。
すでに自社で働いている技能実習生が移行するため、人材紹介料はかかりません。もちろん、渡航費や住居準備費も不要です。必要な費用は、ビザの種類を変えるための手続き費用(10万円~20万円)と、登録支援機関への費用(初期費用+月額費用)だけです。初期投資を劇的に抑えられるため、技能実習生を大切に育て、定着してもらうことが非常に有効な経営戦略となります。
「知らなかった」では済まされない!絶対に守るべき法律と注意点
コスト管理と同じくらい重要なのが、法律を守ることです。ルール違反は、罰金や採用資格の取り消しといった会社の存続を揺るがす事態に直結します。ここでは、経営者が絶対に越えてはならない一線を解説します。
黄金律:会社が負担すべき費用を本人に払わせてはいけない
法律では、会社が負担すべき費用が明確に決められています。
- 絶対に会社が払う費用:空港への出迎えや役所手続きの同行といった「義務的支援」にかかる費用(登録支援機関への委託料も含む)は、全額、会社が負担しなければなりません。給料から天引きするなどもってのほかです。
- 本人負担が可能な費用:家賃や水道光熱費などの生活費は、本人の合意があれば本人に負担してもらえます。ただし、相場より著しく高い金額を請求することはできません。
- 注意点:会社がアパートなどを借りて社宅として提供する場合、敷金・礼金・仲介手数料といった初期費用を本人に請求することはできません。
違法な契約:保証金や違約金は絶対に禁止
「すぐに辞めたら罰金〇〇万円」といった契約は、労働者の自由を不当に縛る「奴隷契約」と見なされ、労働基準法で固く禁じられています。特に特定技能制度では、さらに厳しく規制されています。
もし、海外のパートナーなどが本人との間でこのような違約金契約を結んでいることを知りながら採用した場合、日本の受入れ企業も同罪と見なされます。「1年以内に辞めたら、申請費用50万円を返せ」といった契約は、典型的な違法契約であり、絶対に結んではいけません。違反すれば、罰則だけでなく、特定技能外国人の受入れ資格を永久に失う可能性があります。
パートナー選びは慎重に!悪質ブローカーの見分け方
採用プロセスでは、人材紹介会社や登録支援機関、海外の送出機関など、多くのパートナーと連携します。もしパートナーが不正を働けば、そのリスクは全て自社に降りかかります。したがって、契約前のパートナー選び(デューデリジェンス)が最大の防御策です。
パートナー選びのチェックリスト
- 国の許可(許可番号)を持っているか、きちんと確認しましたか?
- 過去に行政指導などを受けていないか、評判を調べましたか?
- 費用の見積もりは、全ての項目が書面で明確に示されていますか?
- 「本人からは一切お金を取りません」と契約書で約束してくれますか?
- 緊急時に24時間連絡が取れる体制がありますか?
- 早期退職した場合に、紹介料の一部を返してくれる制度はありますか?
安すぎる手数料には裏があるかもしれません。安易なパートナー選びは、将来のトラブルという「時限爆弾」を抱え込むのと同じです。慎重なパートナー選びこそ、経営者がすべき最大のリスク管理です。
採用を成功に導く3つの経営戦略
特定技能外国人の採用は、単なる人手補充ではなく、大きな投資と責任を伴う経営活動です。最後に、この取り組みを成功に導くための戦略を提言します。
戦略1:正しい予算を立てる
まず、「紹介料」だけでなく、「1人あたりの初年度総コスト」で予算を立てましょう。「海外から呼ぶ場合」と「国内で採用する場合」で、それぞれ別の予算モデルを作り、自社の体力に合った戦略を立てることが重要です。特に海外採用では、採用時に100万円以上の現金が一時的に必要になるため、キャッシュフロー計画が不可欠です。
戦略2:契約書を徹底的にチェックする
全てのパートナーとの契約書は、言った言わないのトラブルを避けるためにも、隅々まで確認してください。サービスの範囲、費用、支払時期、責任の所在などが曖昧なまま契約してはいけません。早期退職時の返金ルールも必ず明記させましょう。不安な場合は、専門家にリーガルチェックを依頼することをお勧めします。
戦略3:「コンプライアンスは最高の投資」と心得る
法律やルールを守ることは、コストがかかるように見えるかもしれません。しかし、これが長期的に見て最も効果的な投資です。
公正な採用プロセスと手厚い支援は、外国人材の信頼とやる気を引き出し、定着率を高めます。高い定着率は、採用にかけた多額の初期投資を回収する唯一の方法です。また、人権を尊重するクリーンな会社であるという評判は、優秀な人材を引きつける強力なブランド力になります。
結論として、特定技能制度で成功する企業とは、目先の安さにとらわれず、法的・倫理的な責任をきちんと果たすことこそが、最大のリスク管理であり、最高のリターンを生む投資であると理解している企業なのです。